6 まとめ
今回は, 因果推論と呼ばれるRubin的な介入効果の推定メソッドが経済学では誘導形と呼ばれること, そして誘導形と対比される形で構造推定と呼ばれる方法論が存在することを説明した. 今回具体例として取り上げたOlleyとPakesの研究は, 変数の内生性によって, 動学パネルデータや個別効果モデルといった従来の推定方法では生産関数を適切に推定できないことを指摘した上で, 経済モデルを想定した推定方法によってパラメータを識別したというものである. そして, 提案される計算手順をRでデモンストレートした.
今回は取り掛かった段階で準備期間が1週間を切っていたため, かなり手を抜かざるを得なかった. 以前の発表の続編ということで, 動学構造推定をRで実演したかったのだが, まず説明を書くのに時間がかかるので, 静学構造推定に, そしてRのプログラムを用意する時間もなくなってきたので実装もなし, となし崩し的に縮退していった. さらには, タイトルで「反事実分析」と書いたわりに「反事実」的な要素のあまりない研究を挙げることになってしまった.
今回挙げたOlley-Pakes や Levinsohn-Petrinの研究は10年以上前の話なので, すでに大学院, あるいは学部の授業でも取り上げられることすらあるようだ. そういう意味でもあまりおもしろみのない発表だったとは思う.
しかし, 実際に乱数データでOP法本来のやり方を試してみると, 簡単な生成ルールであっても初期値に依存して標準誤差が大きくなるなど, 意外と扱いづらいことがわかった. これは再現性の問題にも関わってくると思うので, より安定した推定方法を議論するのもおもしろいかもしれない.