5 まとめ

以上の検証から, 各作品の, 1~100の数値で表現される主要な能力値の平均の分布を見ると, 最近の作品ほど分布の分散が上昇し, かつ尖度が上昇している傾向にあることがわかった. これは, 『蒼天航路』や『正史三国志』での再評価を反映した結果, 多くの人物の評価が高いところに集中し, かえって能力の差別化が損なわれているのではないか, という仮説を裏付けるものになる. ただし, 今回の範囲では経時的な変化の検証にとどまっているため, それが正史三國志や蒼天航路とどの程度相関があるのか, ということまでは確認できなかった.

では, あらゆる人物の再評価が進み, 能力の差別化がしづらくなる将来の歴史シミュレーションゲームはどうあるべきなのだろうか?

ここはやはり, 三国志3の分布の顕著な特徴に学んで, 水軍の指揮能力をもたせるべきなのだろうか? 例えば, 主成分析によって過去の作品で登場人物がどのように特徴づけられてきたかを再検討し, ばらつきが最大化するように因子分解する, というような機械的な解法も考えられる. しかし, 『三國志』シリーズのゲームデザインを, 人物評価以外の観点から振り返ってみると, 創作や史実で強大とされてきた勢力はそのまま強大でスタート時点から有利であり, 一方で噛ませ犬のように併呑される運命にある弱小勢力も存在する.

『三國志』シリーズでは昔から「曹豹(ソウヒョウ)張飛(チョウヒ)に一騎打ちで勝つ」「金旋(キンセン)厳白虎(ゲンハクコ)で天下統一」といった弱小勢力でのやりこみプレイができるというのも魅力の一つだと考えられる.

近年はリアルタイムストラテジーのような対人を前提とした戦略ゲームが増えているが, 三國志シリーズのゲームデザインもまた差別化の問題に直面しているのかもしれない.

私の発表はある意味毎回1人ハッカソンをしているようなものなのだが, 今回は特にわからないことだらけであった.

  • フォントレンダリングのことなんもわからん
  • Unicode (CJK統合漢字拡張) なんもわからん
  • 応用できそうな画像・文字認識の研究なんもわからん

というように, 不勉強な分野の話が多く要求された.

また, 当初の構想として, 原典を自然言語処理によって構造化し, なんらかの知見を引き出す, というものもあったが, 日本語ソースの人名ですら名寄せがここまで煩雑では, 非常に難しかっただろう47.


  1. 三国志演義は様々な説話を集めて編纂されたので, 話によって文体や人名の呼び方が違ったりすることが指摘されている. 例えば, 関羽, 関雲長, 関公, 関将軍, など. ましてや正書法の整備されていない中近世のことである. 適切に自然言語処理するにはかなり難易度が高いだろう.↩︎